ハノイ国家大学 外国語大学 大学院 ĐINH THỊ THU HƯƠNG 文学作品における日本語とベトナム語の指示詞の対照 ―文脈指示を中心に― ĐỐI CHIẾU TỪ CHỈ THỊ TRONG TIẾNG NHẬT VÀ TIẾNG VIỆT QUA CÁC TÁC PHẨM VĂN HỌC 修士論文 専攻科目: 日本語学 専攻番号:60220209 ハノイ, 2015 1 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com ĐẠI HỌC QUỐC GIA HÀ NỘI TRƯỜNG ĐẠI HỌC NGOẠI NGỮ KHOA SAU ĐẠI HỌC ----------o0o---------- ĐINH THỊ THU HƯƠNG ĐỐI CHIẾU TỪ CHỈ THỊ TRONG TIẾNG NHẬT VÀ TIẾNG VIỆT QUA CÁC TÁC PHẨM VĂN HỌC 文学作品における日本語とベトナム語の指示詞の対照 ―文脈指示を中心に― LUẬN VĂN THẠC SỸ Chuyên ngành: Ngôn ngữ Nhật Bản Mã số: 60220209 Người hướng dẫn: PGS.TS Nguyễn Thị Bích Hà HÀ NỘI – NĂM 2015 2 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 保証書 私は Đinh Thị Thu Hương で、大学院学科の院生です。私の修士 課程論文は文学作品における日本語とベトナム語の指示詞の対照を テーマとして作成しました。指導教師の教えるを元に、自分で論文 を書くのを保証いたします。他の論文からこピーしないことにしま た。 Đinh Thị Thu Hương i TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 謝辞 本論を行うために多くの方々から、ご協力及び援助をいただきま した。まず、ハノイ貿易大学の Nguyễn Thị Bích Hà 先生は本論文に 対して、深い関心を示してくださり、構想の大枠から問題設定まで、 懇切なるご指導を賜りました。厚く感謝申し上げたいと思います。 また、東洋言語文化学部の先生方が貴重なご意見を下さったことに も心から感謝いたします。 ii TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 論文の概略 本稿では、まず日本語の指示詞に関する理論を簡潔にまとめ、そ れから、それに対応するベトナム語の指示詞に関する理論も紹介し た。その上、日本語の指示詞とベトナム語の指示詞を比較してみた。 その結果、日本語の指示詞とベトナム語の指示詞は共通点も相違点 も多いことは明らかとなった。 次に『窓際のトットちゃん』と『キッチン』という小説を資料に し、先行研究の結果を踏まえ、実際の使用頻度、実践的に各用法・ 使い分けを考察した。文学における指示詞の翻訳の注意点・特徴を 17 にまとめ、ベトナム人学習者に対して翻訳のヒント・提案として 打ち上げられた。 最後に、ベトナム人日本語学習者に対する効果的な指示詞の指導 法を提示するために中・上級レベルのベトナム人学習者の日本語の 指示詞の用法の理解度、運用力についての調査の結果を分析した。 iii TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 目次 序論 1.1 研究の背景 1 1.2 研究の目的 1 1.3 研究範囲 2 1.4 先行研究 2 1.5 研究方法 4 1.6 研究の構成 4 第 1 章:日本語とベトナム語の指示詞の対照 5 1.1 日本語 1.1 日本語の指示詞とは 5 1.2 指示詞の分類 6 1.1 現場指示 6 1.2 文脈指示 8 1.3 指示詞の意味・用法 10 1.2 ベトナム語の指示代詞 13 1.1 ベトナム語の指示代詞とは何か 13 1.2 ベトナム語の指示代詞の分類 13 1.3 日本語指示詞とベトナム語指示代詞(文脈指示を中心に) 21 1.1 共通点 21 1.2 相違点 23 1.4 まとめ 26 第2章:文学作品における日本語とベトナム語の文脈指示の考察 28 2.1 考察資料 28 2.2 考察の方法 29 2.3 考察の結果 29 2.1 こ系列 30 2.2 そ系列 38 2.3 あ系列 48 2.4 文学作品における指示詞の翻訳への提案 51 2.5 まとめ 53 iv TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 第3章:ベトナム人学習者に対する日本語の指示詞の理解度・運用力の調査 55 3.1 中・上級レベルのベトナム人学習者の理解度及び運用力についての調査 55 3.1 調査対象者および調査方法 55 3.2 調査の結果 56 3.3 調査の結果による考察と分析 57 3.2 日本語の指示詞指導法への提案 60 3.1日本語の指示詞の指導法 60 3.2読解問題を使用する指導法 61 3.1中級レベルの問題 61 3.2上級レベルの問題 64 3.まとめ 67 結論 68 参考文献 70 付録 1:『窓際のトットちゃん』の考察 付録 2:『キッチン』の考察 付録 3:調査のアンケート v TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 序論 1.1 研究の背景 吉田(1980)は指示詞は、原初的な言語機能をもった語彙群であるため、ほとんど の言語に存在していると述べている。それに、どの言葉にも会話のみならず文書にも 指示詞が重要な役割を果たしている。日本語学習者が初級で必ず出合う指示詞「こ・ そ・あ」は、一見、かなり簡単な文法表現だと思われがちであるが、上級になっても 指示詞の誤用が目立つことは早くから指摘されており、学習者にとって習得が難しい 文法項目であると言われている。にもかかわらず、指示詞は実際の授業では他の学習 項目に比べ、指導や教科書などの説明も不充分であると言えるだろう。初級段階で手 にする『みんなの日本語』という日本語教科書をはじめ、ベトナム人により編集され た『Ngu phap tieng Nhat(日本語文法)』などにおいて、いわゆる「こ・そ・あ・ど」 はごく簡略的なもので詳細な内容までは教わらない。例えば「これ」は話し手から近 いものを、「それ」は聞き手から近いものを、「あれ」はどちらからも遠いものを指し 示す。 実は初級レベルでは、それだけ習得しておけば十分であるが、中級からの文書にあ る指示詞を理解するには絶対足りないと言わざるを得ない。しかし、会話用のテキス トをはじめ、ほとんどの文法研究書も指示詞は取り扱われていないのが実情である。 そのため、ベトナムの学習者は初級で習った知識を基本として中級・上級の指示詞の 意味・用法を自分で学習するしかない。また、指示詞に関する母語(ベトナム語)と 日本語の共通点に頼って理解しなければならない。ベトナム語の場合、「Đại từ chỉ định」 (指示詞)は日本語の指示詞に相当する。 ところが、ベトナム語における指示詞は日本語の指示詞と全く同じわけではない。 ベトナム人向けの日本語教育の立場から見た場合、日本語の指示詞にはさまざまな用 法があり、その上、母語の指示詞の知識も把握していないこともよくある。結局、母 語に頼り過ぎ、使いこなすのはもとより正確な理解も困難になってしまう。 このように、「こ・そ・あ」の指示詞はベトナム人日本語学習者の指示詞の理解・ 運用力を向上することはベトナム人にとって日本語教育に不可欠なものであろうと考 えられる。 1.2 研究の目的 日本語学習者は話すこと、書くことがより自然になること、徹底的に理解できる読 1 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 解力を図るために、文法と語彙などの知識以外に、指示詞をうまく取り扱うことは欠 かせないと言われている。しかし、上記のようにベトナム人日本語学習者は文法、語 彙力が中・上級に達しても、指示詞の理解・運用力が高くないと見られている。それ で、本稿では指示詞の「こ・そ・あ」、特に文脈の指示詞を正確に理解でき、更に使 用できるように日本語とベトナム語の指示詞に関する理論を洗い直し、比較しつつそ の使いわけをまとめてみる。その上で、日本語の指示詞とベトナム語の指示詞の共通 点及び相違点を分析する。また、日本の小説を通じて実際に使用された指示詞を調査 し、その使い分けは教科書に記載された理論ではどうなるか、そしてベトナム語にど う翻訳されたかを考察してみたい。それによって、日本語の指示詞がよりうまく使用 でき、特にベトナム人学習者の日越・越日に対する通訳・翻訳能力が向上できるであ ろうかと考える。 1.3 研究範囲 本論では日本語とベトナム語に関する理論を簡潔にまとめるが、文脈指示の「こ・ そ・あ」を中心に研究を行い、指示詞の疑問詞である「ど」を取り扱う対象に入れな い。なぜなら、文脈指示こそ中・上級の日本語学習者がよく迷うからである。疑問詞 の「ど」は他の指示詞に比べ文脈にあまり現れず、疑問の意味しか持っていないため、 他の意味と間違えることがないと考えられる。 そして、本研究は指示詞を理論的に掘り下げず、日本の文学作品(『窓際のトット ちゃん』、『キッチン』)とその文学作品のベトナム語版を対照し、実践的な意味・用 法、翻訳方法を考察する。 1.4 先行研究 日本語の指示詞は、古くから日本語学・国語学の分野において多大な関心が持た れており、指示詞にかかわる研究は様々な角度から考察され、またその数も多い。ま ず、日本語の指示詞研究は佐久間(1951)から始まったと言っても過言ではない。佐 久間はそれまで主流であった「距離区別説」に対して、(1)話し手(一人称)、聞き 手(二人称)、それ以外(三人称)という人称のなわばり(勢力範囲)によって 「こ・そ・あ」を区別する「人称区分説」を提唱し、その後、また指示詞の方向性も 決定付けている。 コ:発言者・話し手のとどく範囲にあるものを指す。 ソ:話し相手の手のとどく範囲、自由に取れる区域内のものを指す。 2 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com ア:コ・ソの勢力圏外にあるものを指す。 佐久間は、現場指示に加えて、従来ほとんど区別されていなかった文脈指示的用法 を見出した点で指示詞研究に大きく貢献したものの、文脈指示については人称との関 係を認めるに留まっていると言えよう。 次に、久野(1973)は文脈指示に関して、話し手と聞き手の知識を導入し、より詳 細に考察した。 それから、黒田(1979)は、聞き手がいない言語使用(独り言)においても指示詞 が使われ得ることを考察し、「聞き手の知識」を含む久野の語用論的規定からの脱却 を試みる。黒田は指示詞の用法を現場指示・文脈指示ではなく、「独立的用法・照応 的用法」に分類した。黒田は久野の提案した「知識」を、「直接的知識/観念的知識」 としてより明確にし、独立的・照応的用法に対する統一的説明を試みている点で評価 できる。しかし、問題としてはコ系についてはほとんど触れられていないことである。 言語形式の使用法の記述から「聞き手の知識」を排除するという黒田の考えを更に 発展させた研究としては、田窪・金水(1996)、金水(1999)の研究が挙げられる。 メンタル・スペース理論を対話的談話に拡張した動的な談話理論(談話管理理論)を 基盤に、指示詞を記述した研究である 以上は現在、主流をなしているように見える研究傾向である。ここでは、それと異 なった方向性を提示している研究として、阪田(1971)、李(2002)の研究が挙げら れる。 一方、ベトナム語の指示詞にかかわる研究はそれほど重視されていない。最初のベ トナム語文法の研究と思われている 『Giáo trình về Việt Ngữ』において、Hoàng Tuệ、 Lê Cận、 Cù Đình Tú(1962)に文法機能をもとに「Chỉ từ」(指詞)という名称が生ま れたが、Nguyễn Kim Thản(1963)は『Nghiên cứu về ngữ pháp tiếng Việt(ベトナム語 文法研究)』では初めてベトナム語の「Đại từ chỉ định(直訳:指定代詞)」という 概念を定めた。その時になって初めて「Đại từ chỉ định」が注目された。それから、 Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)や Diệp Quang Ban (2008)などが『Ngữ pháp tiếng Việt (ベトナム語の文法)』にベトナム語の「Đại từ chỉ định(直訳:指示詞)」に関し て様々な視点から研究を行った。Diệp Quang Ban(2005)はベトナム語の指示詞を 「空間」、「時間」、「数量」といった 3 つの意味に分類した。それから Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)は違う視点でベトナム語の指示詞を「位置」、「時間」、「状 態」という 3 つの意味に分類した。 また、日本語の指示詞の対照研究について、日本語と中国語の指示詞の対照が最も 3 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 多い。迫田(1997)、渡邊(1996)、安(2000)、高(2002)などは中国語による負 の移転、またその原因を分析した。同じように日本語と韓国語、英語、タイ語の指示 詞の対照に関する研究が数多くある。しかし、残念ながら日本語とベトナム語の指示 詞の対照研究はまだないと言える。 1.5 研究方法 本研究では、今までの先行研究、関連研究を基に筆者の観点を加え、更に整理・分 析・統合した。 第1章では、日本語とベトナム語の指示詞に関する理論的な資料、先行研究を参考 にして、その分類と特徴をまとめる。それに基づき、日本語の指示詞とベトナム語の 指示詞を対照した上で、理論上の共通点と相違点を挙げる。 第 2 章では、 黒柳徹子の『窓際のトットちゃん』、吉本ばななの『キッチン』と いった小説から文脈の指示詞を使った例文を取り上げ、それらに当てはまるベトナム 語の表現を詳細に考察する。例文の考察から、結論を出す。 第 3 章では、ヌイチュック日本語センターのN3、N2 対策クラスを終了した 63 名を対象にして、日本語の指示詞の使用に関するベトナム人日本語学習者の現状 の調査を紹介し、その結果を分析する。また、その結果を踏まえて、日本語を教える 教師の立場から、適切な指導方法を考えてみる。それに、誤用を避けられる解決、そ して学習者の指示詞運用力を向上させる提案を出す。 1.6 研究の構成 本論は、序論、結論、謝辞、付録を除いて、第1章、第2章、第3章という三つの部分 からなる。 第一に章では、各先行研究を観覧して、日本語とベトナム語の指示詞の概念、分類、 意味論的・語用論的な特徴についてまとめた上で、日本語の指示詞とベトナム語の指 示詞を対照し、その共通点と相違点を明らかにする。 第二に章では、文学作品における日本語とベトナム語の文脈指示を考察する。その考 察の結果に基づいて日本語の文学作品の翻訳おける指示詞の翻訳の特徴、傾向をまと め、翻訳指導への提案を出す。 第三に章では、指示詞の理解度・運用力の調査の概要、調査結果およびその分析を述 べる。また、日本語の指示詞を教える方法、及び日本語学習者の運用力を高める方法 を提案する。 4 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 第1章 日本語とベトナム語の指示詞の対照 上述のように「こ・そ・あ」は名詞、形容詞、副詞など広く分布しているため、指 示詞に関する研究は様々な面に渡り、またその数も多い。本研究では『初級を教える 人のための日本語・文法ハンドブック』『中上級を教える人のための日本語・文法ハ ンドブック』『文法の時間』など先行文献により取り上げられた重要な論点を紹介す る。 1.1 日本語の指示詞 1.1 日本語の指示詞とは 今まで指示詞について様々な定義がなされてきた。ここでは、そのうちの代表的な 定義として『日本語辞典』での指示詞の定義は以下のようである。。 下の表に示すように、物事、方角、場所、人、状態などを指し示す語には、「こ」 で始まる語(こ系列の語)、「そ」で始まる語(そ系列の語)、「あ」で始まる語(あ系 列の語)がある。これらの語は、品詞の面では、代名詞、連体詞、副詞などいくつか の品詞にわたっているが、いずれも何かを直接指し示す働きをするという点では一致 している。そこで、これらの語を一括して、指示詞とし、その語頭の形によって 「こ・そ・あ」と呼ぶ。 表 1:「こ・そ・あ」の一覧: 品詞 指し示すもの こ系列 そ系列 あ系列 代名詞 物事 これ それ あれ 方角・方向 こちら そちら あちら こっち そっち あっち 場所 ここ そこ あそこ 人 ( 卑 )・ も こいつ そいつ あいつ の 連体詞 物事・人など この その あの 状態・状況 こんな そんな あんな 副詞 こう そう ああ 5 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com また「あ系列」は、古くは「か系列」であった。「か」は現在でも、「かれ(彼)」、 「はるかかなた」、「かの有名な××」などに残っている。 1.2 指示詞の分類 先行研究者によると、日本語の指示詞には様々な形式があるが、本稿には従来の指 示詞の研究を編集した村田(2005)の分類に基づき、下記のように指示詞の種類を分 類している。「こ・そ・あ」による指示の用法は、大きく 2 つに分けられる。一つは 指すものが話の現場にある場合(現場指示)で、もう一つは指すものが話の中に出て くる場合(文脈指示)である。 1.1 現場指示 「現場指示」とは指示対象が語感で認識可能な場合の指示である。また会話の現場 にあるものを指すためによく用いられるので、表現に際して、指で指し示すなどの行 為を伴うことが多い。この用法は、話し手と聞き手の位置関係によって、さらに「立 型」と「融合型」に分けて考えることが出来る。 (1)対立型: 現場で話し手と聞き手が離れた位置にあるときには対立型と呼ばれる原理によって 指示詞が使い分けられる。対立型における原理は次の通りである。 図 1:「対立型」の用法 あ こ そ あ 話し手 聞き手 こ:話し手の領域にあると考えるものを指す。 そ:聞き手の領域にあると考えるものを指す。 あ:話し手と聞き手のどちらの領域にも属さないと考えられるものを指す。 注 1:村田美穂子(2005)『文法の時間』至文堂、東京 「こ・そ・あ」の使い分けについては、話し手から近いものには「こ」(近 称)を、遠いものには「遠称」を、その中間のものには「そ」(中称)を用いるとい う理解があるかもしれない。すなわち、物理的な距離の違いによって使い分けられて 6 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com いるという考え方である。 しかし、次の例などを考えると、「こ・そ・あ」が対象との物理的な距離によ って使い分けられるのではないことが分かるだろう。 (1):(歯科医院で) 医者:ここはどう?痛い?(と、器具で歯に触る) 患者:そこは痛くありません。 物理的には話し手に属するものであっても、その会話の中で心理的に相手の領域に 入っていると話し手が判断した場合には、「そ」が用いられるのである。 このようなことから、「こ・そ・あ」の使い分けは、物理的な距離より、心理的な 領域(なわばり)の意識によって使い分けが行われていると考えられる。 (2)融合型 現場で話し手と聞き手が同じ位置にいる場合や聞き手がいない場合は、融合型とい う原理で指示詞が使い分けられる。その原理は図示すと次のようになる。 図 2:「融合型」の用法 話し手・聞き手 われわれ こ そ あ こ:「われわれ」の領域内にあると考えられるものを指す。 そ:「われわれ」の領域外で、比較的近いと考えるものを指す。 あ:「われわれ」の領域外で、遠いと考えられるものを指す。 注2:村田美穂子(2005)『文法の時間』至文堂、東京 「融合型」の「そ」について正保(1981)は、「『ア』で指すには近過ぎるというよ うな状況で、やむなく使用される『ソ』である」と述べた。 つまり、下記の場合を除いてあまり使われない。 (2)(タクシーで)「運転手さん、そこの角で止めてください。」 (3)「何捜してるの?」、「鍵なんだけど、どこか、その辺にないかな?」 7 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com (3)慣用句と「こ・そ・あ」 三上(1955)は対立型:「こ」と「そ」の対立、融合型:「こ」と「あ」の対立を述 べた。このような対立構造は日常の慣用句にも反映されている。「こ・そ・あ」の慣 用句は次のように「こ」と「そ」の組み合わせか、「こ」と「あ」の組み合わせであ って、「そ」と「あ」の組み合わさった慣用句は見当らない。そして、どの組み合わ せでも、必ず「そ」あるいは「あ」が先で、「こ」が後である。 (4)そうこうしているうちに、警官がやってきた。 (5)そんなこんなで一日が終わってしまった。 (6)ああ言えばこう言う人が少なからずいる。 (7)ああだこうだといちいちうるさい。 (8)あちこちから人が集まってきた。 1.2 文脈指示 堀口(1978)の定義に従えば、文脈指示の用法とは次のような用法を指す。 「文脈指示とは、相手または自分の表現内容にある素材をその対象として指示する用 法であり、この用法は、知覚可能な素材のみを対象とする現場指示と違い、知覚の可 否には無関係にいかなる素材も対象として指示しうるものであり、また、対象があら わに示されることのない観念指示と違い、対象とされる素材はこの語の前あるいは後 ろに明示されるものである。」 この用法は、さらに、指示詞がその前の部分の内容を指す場合(前方照応)と、指 示詞がその後ろの部分の内容を指す場合(後方照応)とに分けて考えることが出来る。 (1)前の部分を指す 「前方照応」と呼ばれる用法である。「こ・そ・あ」は、それぞれ次のように用い られる。 a) こ 直前の話題の対象を指す。「そ」で置き換えられるものが多いが、「こ」で表すこと によって、その対象を特に話題として話を続ける、対象を話し手に近いものとしても 述べるなどのニュアンスが生じる。 (9)中田という男がいるんだが、〔こいつ/そいつ〕はすごいんだ。 (10)私は今、西宮という町に住んでいる。〔この/?その〕町は大阪と神戸の間に 8 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com ある住宅・工業都市であるが、「甲子園球場」のある町であることを知っている人は 案外少ない。(金水敏 1989 提載例) (10)については金水(1989)は「ソよりもがコ好まれる文脈の一例である。ソを 用いるとややよそよそしい感じがするのは、『自分の住んでいる町』という限定の効 果によるものと思われる。」という見解がある。 b) そ 話題に出てきた対象を指したり、相手の述べた内容を指したりする。また、仮定の 内容を指す場合にも用いる。「こ」で置き換えられものもあるが、「そ」を用いること で、対象を客観的に扱う、対象を突き放して見るなどの印象を与える。 (11)愛知県蒲市。〔そこ/ここ〕は私の生地です。 (12)もし雨が降ったら、その時は中止しましょう。 なお、「その」だけが使われる例として、次のような報告がある。 名詞の所有関係を示す「その」 (13)このカードは、会員とその(×この/×あの)家族が使用できます。 「その+名詞」を含む分の内容が指すものを含む文の内容に対して、逆接的・ 対比的である場合。 (14)花子は結婚を否定していた。その(×この/×あの)花子が来週結婚する。 c) あ 話し手と聞き手との間で共通理解のある内容や、記憶の中の内容を指す。 (15)京都にいって来たんだけど、あそこはいついってもいいね。 (16)メロスも、満面に喜色を湛え、しばらくは、王とあの約束さえ忘れてい た。(太宰・走れメロス) (17)おーい、かあさん、あれは、あるか。あれじゃ、あれ! (18)あの湯豆腐はうまかったなぁ...。(独り言) 「あ」の使用は共通理解のある内容について行われる。したがって、話し手の みが分かっていて、聞き手が話し手と共通の理解をしていない場合には、会話が進ま ない。(17)で、聞き手(かあさん)も共通の理解をしていれば、「あれは、きのう机 の引き出しにしまったじゃないですか」などという具合に会話が進むだろうが、共通 の理解が得られない場合には、「あれ」が何かを指すか聞き手には分からない。「あれ って何ですか」ということになる。 9 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com なお、「あ」は、「こ」や「そ」とは異なり、指示される語がその直前にあると は限らない。(16)では少し前の箇所に、「三日目の日没までに戻る」という王との約 束が記されている。また、(17)(18)では具体的な名称などでの設定はなされておら ず、指示対象は思考や記憶の中にある。このように、指示される語のあり方に相違が あることから、文脈指示は更に、次のように分けられることもある。 文脈指示(狭義):こ、そ 文脈指示(広義) 観念指示:あ (2)後ろの部分を指す 「後方照応」と呼ばれ、指示詞がこれから述べる内容を先取りする用法である。こ の用法は「こ」と「そ」に限られ、「あ」には見られない。 (19)じゃ、こうしましょう。私が読み上げて、あなたが書く。いいですね? (20)こんな夢を見た。腕組をして枕もとに触っていると... (21)僕もそうなんだけど、週末はついつい夜更かしをしてしまうね。 「こ」と「そ」の使い分けについては、話し手が、先取りする内容を自分固有の情 報であると意識する場合には、「こ」を、相手との共有を意識する場合には、「そ」を 用いると考えられる。 1.3 指示詞の意味・用法 上記の理論を基盤にし、金水・木村・田窪(2001)は『日本語文法セルフマスター シリーズ 4・指示詞』で提示された 34 の指示詞の用法、そして、仁田らが編集した 『現代日本語文法 7』で記載された「こ」系しか現れない場合、「そ」系しか現れな い場合、「あ」系しか現れない場合をまとめ、次の指示詞の意味・用法を取り上げる。 表 2:指示詞の意味・用法 順序 意味・用法 こ そ あ 1 現場(目の前)のものを指し示す「これ・それ・あれ」 2 現場(目の前)のもの・人を指し示す「この・その・あ の」 3 眼前の人を指し示す「これ・それ・あれ」 10 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 4 場所を指し示す 5 ある場所を中心として、その周辺を指し示す「こ・そ・ あ」 6 視線の方向、物事が存在したり出来事が起こったりする場 所の方向を指し示す 7 移動の方向 8 「{こっち/そっち/あっち}が指し示す方向の一地点」を表す 9 「こっち/そっち/あっち」で人を指し示す用法がある 10 二つの対象を比較する「こっち/そっち/あっち」 11 両方の共通体験を表す × × 12 話し手の体験提示を指し示す × × 13 仮定の文脈や一般的な事態を表す文脈の中で持ち出された × 物事 14 相手が持ち出した物事(相手領域)を表す × × 15 文脈焦点を指し示す × × 16 文章の中で引用として提示した文や文句、文章に添えられ × × た図などを直接指し示す 17 直前の文脈の中に現れた{人/もの/事柄}(=×)と関係のあ る{人/もの/事柄}(=Y)を指し示すとき、× を繰り返して 「×の Y」などという代わりに「その Y」という形を用いる 18 指し示される物事と同じ性質・特徴を持った名詞という意 味を表す 19 動詞を修飾して、動作・作用の様態(仕方・進み方)を指 し示す 20 「結果動詞」を修飾すると、動作や作用の結果の状態を表 す 21 「発言・思考を表す動詞」を修飾すると、発言・思考の内 容を表す 22 形容詞、動詞、連用修飾語を修飾して、それが表す様態の 程度・量が大きいことを表す「こんなに・そんなに・あん なに」 11 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 23 形容詞、連用修飾語を修飾して、それが表す様態の程度・ 量が大きいことを表す「こう/そう/ああ」 24 「{これ/それ}に対して」、「{これ/それ}と反対に」、「{これ/ × それ}とは逆に」などの接続詞に表れる「これ/それ」は、直 前の文章の内容を指し示す 25 「{この/その}結果」、「{この/その}反面」、「{この/その}せい × で」、「{この/その}ため」、「{この/その}意味で」などの表現 に表れる「この/その」は直前の文章の内容を指し示す 26 それというのも/それでいて/それなのに...」などの「そ × × れ」、「そのくせ/その反対に/その上」などの「その」は直前 の文章の内容を指し示す 27 相手の問いかけに対する同意・反対などの応答を表した × × り、直前の文の述語を代用したりする 28 時間・時期・期間を表す表現を作る 29 指示詞+複数(+名詞) 30 {これ/それ/あれ}ほど」という形式には、形容詞、動詞、連 用修飾語などを修飾して、それらが表す程度・量が大きい ことを表す用法がある 31 「それほど」には述語の打ち消し形「~ない」と組み合わ × × せて、述語が表す量や程度が予想されるほど大きくないこ とを表す用法がある 32 「{これ/それ/あれ}だけ」という形式には形容詞、動詞、連 用修飾語などを修飾して、それらが表す程度・量が大きい ことを表す 33 「こちら/そちら/あちら」には、「こっち/そっち/あっち」の 敬語形、「ここ・そこ・あそこ」の敬語形、人を表す敬語の 指示詞などの働きがある 34 こ・そ 27・あの形式の中でいくつかのものはお互いに対の 形に組み合わせて慣用句や慣用表現を構成する (注:は当てはまる、は条件付けであてはまる、あるいはまれである、×は正し くない、備考は前述にあった見出しの順番を示す) 12 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.2 ベトナム語の指示詞 1.1 ベトナム語の指示詞とは何か 日本語の指示詞を研究した上で、日本語の指示詞とよく似た機能(意味・用法) を持っているベトナム語の「Đại từ chỉ định」(直訳:指定代詞)があると分かってき た。筆者の教育経験によれば、ベトナム人学習者は日本語の指示詞を習得する際に、 指示詞と同じ機能を果たすベトナム語の「Đại từ chỉ định」を同様のものとみなし、 そこから指示詞を類推しているのではないかと考えられる。 日本語の指示詞のように、ベトナム語の「Đại từ chỉ định」については様々な研究 が行われ、名称もいくつかある。最初のベトナム語文法の研究と思われている 『Giáo trình về Việt Ngữ』において、Hoàng Tuệ、 Lê Cận、 Cù Đình Tú(1962)に文法 機能をもとに「Chỉ từ」(指詞)という名称が生まれた。それから、Nguyễn Kim Thản(1963)はベトナム語の代詞を分類するとき、「này」、「 ấy」、「 kia」など を「Đại từ chỉ định」(指定代詞)と定義した。その時になって始めて「Đại từ chỉ định」が注目され、「Đại từ chỉ định」という名がベトナム語の文法の研究に定着する ようになった。また、「Đại từ chỉ định」という品詞は日本語の指示詞とよく似た機 能を持っているので本研究では「ベトナム語の指示詞」と翻訳する。本研究では 「Đại từ chỉ định」のことをこれ以降「ベトナム語の指示詞」を言う。 まず、ベトナム語の指示詞の定義について、ベトナムで出版された『Ngữ pháp tiếng Việt (ベトナム語文法)』(Diệp Quang Ban、2005)は。 「Chỉ định từ là những từ không mang nghĩa, chúng được dùng để quy chiếu đến một số phương diện, và giúp chỉ vật, viêc, hiện tượng trong mối quan hệ với các phương diện đó. 」 訳文:指示詞はそれ自身意味を持っていないが、いくつかの方面の基点を表し、そ の方面と関係がある物・事・現象を指すために用いられる。 1.2 ベトナム語の指示詞の分類 ベトナム語の指示詞については様々な研究が行われているが、日本語の指示詞ほど 盛んになっていない。Hoàng Tuệ、 Lê Cận、 Cù Đình Tú(1962) 、Nguyễn Kim Thản (1963)などの研究者はベトナム語の指示詞を出したが、深く述べていなかった。詳 細な研究として Diệp Quang Ban(2005)と Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)が挙げら れる。まず、Diệp Quang Ban(2005)はベトナム語の指示詞を「空間」、「時間」、「数 量」といった 3 つの意味に分類した。それから Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)は違 う視点でベトナム語の指示詞を「位置」、「時間」、「状態」という 3 つの意味に分 13 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 類した。 しかし、まとめてみると、その研究の共通点、つまりベトナム語の指示詞の特徴が 見られる。例えば、空間の指示詞と時間の指示詞が挙げられる。空間的位置を指す指 示詞は Diệp Quang Ban(2005)が「空間の指示詞」と呼ぶが、Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)が「位置を指す指示詞」と呼んだ。実はその指示詞の本質は同じだが、 呼び方が違うだけである。これ以降、筆者はそれを「空間の指示詞」という。 また、Diệp Quang Ban(2005)が示した「数量の指示詞」は Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)の研究になかった。一方、Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)が定義した 「状態を指す指示詞」は Diệp Quang Ban(2005)の研究に触れていなかった。だが、 指示詞はそれ自身意味を持っていないが、いくつかの方面の基点を表し、その方面と 関係がある物・事・現象を指すために用いられるという指示詞の定義を照らすと、そ の二つは指示詞である。そのため、筆者は Diệp Quang Ban(2005)と Lê Đình Tư,Vũ Ngọc Cẩn (2009)の研究に基づき、次のように、ベトナム語の指示詞を大きく 4 つ に分類し、まとめなおす。 ①空間の指示詞 「này」、「kia」、「 kìa」、「 ấy」、「đấy」、「đó」、「nọ」、「đây」など話し手と話にあった 対象の空間関係を表す言葉は位置を指す指示詞という。 空間関係を表すために、まず空間的な基点を確定しなければならない。その基点は 話し手、聞き手、もしくは話し手か聞き手の話にあるものにしてもいい。「Tôi không thích cái áo sơ mi này(このシャツが好きじゃありません。)」と言うと、「này」によっ てそのシャツは話し手から近いことが分かる。 一方、次の例のように言うと、「ấy」は、「này」より聞き手から近いことが分かっ た。このように、その指示詞は話し手と聞き手ともの、あるいは「もの」と「もの」 の空間関係を表す働きがある。 (22)Tôi thích cái áo ấy hơn cái áo này。 (このシャツよりそれのほうがすきだ。) 14 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com しかし、その空間関係は明らかに確定できる場合も、確定できない場合もある。 「đây」、「 này」、「 kia」、「 đấy」、「 đó」、「 ấy」などは両方の場合で使うことができる。 位置が確定できる 位置が確定できない (23)Tôi đã đi trên con đường này. (27)Tôi đi đằng này một chút. この道を歩いたことがある。 ちょっと出かける。 ( 28 ) Chị ấy hỏi chuyện hết người này đến (24)Chị lấy cái áo này hay cái kia? このシャツとそのシャツ、どっちに người kia.
しますか? いろいろな人に聞きました。 (25)Thằng đấy là con trai bác Ba. (29)Chị Hằng đi đâu nó theo đấy. 奴は Ba さんの息子だ。 彼は Hang さんにくっついて行く。 (26)Bên ấy có người ngày mai ra trận. (30)Tớ có cái ấy, cậu có muốn ×em không? 向 こ う に 明 日 、 戦 場 に 行 く 人 が い あるけど、見る? る。 一方、「nọ」という代詞は位置が確定できない場合しか使わない。 (31)Ở một trường nọ có sinh viên không làm được bài thi đã toan tự tử.
ある学校に試験の問題ができず、自殺しようとする学生がいた。 (32) Ở nhà, chị làm hết việc này việc nọ. (家で、彼女は家事を全てする。) 15 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 表 3: 空間の指示詞の分類 話し手と聞き手がいるところ を 指 す 指 示 詞 :「 cái này ( こ れ)」の「này」(方言は「ni」)、 空間の位置が確定で 「nơi đây(ここ)」の「đây」 き な い 指 示 詞 : 「 đây 」、「 này 」、 「 kia 」、「 đấy 」、 「 đó」、「 ấy」、「nọ」 話し手と近く、聞き手から遠 空間の いところを指す 指示詞:「cái 指示詞 空間の位置が確定で này(これ)」の「này」(方言 きない指示詞 は「ni」)、「nơi đây(ここ)」の 「đây」 慣用句の意味を表す 空間の指示詞:「○này 聞き手と近く、話し手から遠 ○nọ」、「○này○kia」 いところを指す指示詞:「cái ấy(それ)」の「ấy」、「cái đó (それ)」の「 đó 」、「cái đấy (それ)」の「đấy」 話してからも聞き手からも 遠いところを指す指示詞:「cái kia(あれ)」の「kia」(方言は 「tê」)で、「đằng kia kìa(あそ こ)」の「kia kìa」 ②時間の指示詞 時間を指すために、「hiện tại(現在)」という時間的な基点が用いられ、それと対 立するのは「không hiện tại(現在ではない)」だ。ベトナム語には「hiện tại(現在)」 を意味する指示詞は「bây giờ(今)」, 「nay(今、今日)」で、「không hiện tại(現在 ではない)」を意味する指示詞は「bấy giờ(その時)」である。「bấy giờ(その時)」は 16 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 過去と未来の時間が両方表せる。 (33)Bây giờ rõ mặt đôi ta, Biết đâu rồi nữa chẳng là chiêm bao! (Nguyễn Du) (今、もう会える。もう夢ではない。) ここの指示詞は現在の時点を指す。 (34)Nhìn xem phong cảnh nay đà khác xưa. (Nguyễn Du) (今の景色が前と違う。) この指示詞は現在の時点を指す。 (35)Đời Hùng Vương đã có sử sách chưa? (フン王様のとき、何か記録がある) Bấy giờ chưa có.(その時はまだない) 上の指示詞は過去の時点を指す。 (36)Làm cho rõ mặt phi thường, Bấy giờ ta sẽ rước nàng nghi gia. (Nguyễn Du) (家族に話し、その時、あなたを迎える) この文にある指示詞は未来の時点を指す。 上記は時間指示だけの指示詞で、他に「đây、 đó、 đấy」はもともと空間の指示詞 だが、時間の指示にも使われている。その中に、「đây」は現在の時点、あるいは現在 で話している時点を、「đó、 đấy」は現在ではない時点を表す。 (37)Từ đây trở đi họ không phải vất vả nữa.
(これから、もう大変ではなくなる。) (38)Từ đó họ không phải vất vả nữa. (それから、もう大変ではなくなった。) また、他に「danh từ thời gian + chỉ định từ thời gian(時間を指す名詞+時間の指示 詞)」か「danh từ thời gian + thực từ chỉ vị trí/chỉ hướng(時間を指す名詞+空間の指示 詞・方向の指示詞)」という形もよく用いられている。それは複合詞として取り扱い、 その使い方はかなり複雑で、現在、過去、未来などで区別されている。 (1)現在を指す 現在の時点を指すのは「nay」と「này」が挙げられる。「nay」は「hôm 」に付くと 「今日」という意味をするし、「ngày」に付くと「今日」の意味として使われること もあるが、殆どの場合は「今や」という意味を表す。「này」は「tuần này(今週)、 tháng này(今月)、 năm này(今年)、 mùa này(今の季節)」などのように「日」より 長い単位と、「giờ này、 phút này(たった今)」などのように「日」より短い単位に付 17 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com くことになっている。 ただし、時点でなく、期間を表す「này」もあるので、注意が必要である。 (39)Tuần này nó đi vắng. (今週、彼は家にいない) ここの「này」は時点を指す。 (40)Nó vắng nhà hai tháng nay. (ここ 2 ヶ月、彼は家にいない) ここの「này」は期間を指す。 (2)過去を指す 過去の時点を指すために、「hôm qua(昨日)、 tuần qua(先週)、 tháng qua(先月)、 năm qua(去年)」などのように「時間を指す名詞+qua」で「tuần trước(先週)、 tháng trước(先月)、 thế kỷ trước (前世紀)」などのように「時間を指す名詞+ trước」で、「năm ngoái(昨年)」のように「時間を指す名詞+ngoái」で表される。 「nãy」と「kia(方言は「tê」)」も過去の時点を指すために使われているが、意味 がちょっと違う。 その中で、「不明な時間を指す名詞+nãy」は近い過去、つまり一日の時間に限られ ている。ただし、先日の 1 時から次の日の 12 時までという期間は使われていない。 例えば、「lúc nãy」, 「hồi nãy」,「 ban nãy」は全部「先/少し前」という意味がある。 しかし、「giờ nãy(少し前の時間)」,「 ngày nãy(先日)」 はない。 一方、「はっきり時間を指す名詞+kia」は現在からある程度遠い過去の時点を指す。 例えば、「hôm kia (一昨日)」や「năm kia(一昨年)」などである。その意味を表す 「kia」がかなり限られている。 (3)未来を指す 未来を指す専用の指示詞がないが、「はっきり時間を指す名詞+空間の指示詞・方 向の指示詞)」という形で表す。例えば、「giờ sau(次の時間)、 hôm sau(次の日)、 tuần sau(来週)、 tháng sau(来月)、năm sau(来年)、 thế kỉ sau(来世紀)」などのよ うに「はっきり時間を指す名詞+sau」、giờ tới(次の時間)、 hôm tới(次の日)、 tuần tới(来週)、 tháng tới (来月)、năm tới(来年)、 thế kỉ tới(来世紀)」などのよ うに「はっきり時間を指す名詞+tới」が使われている。 その中には、「ngày mai(明日)」の「mai」ははっきり時間を指す名詞である 「ngày」についても、「Mai tôi đến (明日、来る)。」のように「mai」は独立の存在と してもいい。 18 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 表 4: 時間の指示詞の分類 現 在 を 指 す 指 示 詞 :「 nay 」、 確定できない指示詞:「nọ」 「này」 時間の指 確定できる指示詞:「時間を指 過去を指す指示詞 す名詞+qua」、「時間を指す名 示詞 詞+trước」、「時間を指す名詞 +ngoái」、「nãy」と「kia(方 言は「tê」)」、「はっきり時間を 指す名詞+kia」 未来を指す指示詞:「はっきり 時間を指す名詞+空間の指示 詞・方向の指示詞)」、「はっき り 時 間 を 指 す 名 詞 + mai 」、 「mai」 ③数量の指示詞 測定できるものは「bây nhiêu」、「 bấy nhiêu」で確定された大体の量が表される。 その二つの言葉は測定できるもの、こと、現象の全てに用いることができる。その中 には、「nhiêu」は「nhiều(たくさん)」と関係があり、「bây」と 「bấy」は「đây」と 「đấy」に関係がある。一方、上記のように「 đây」、「 đấy」は「này」、「 ấy」とつな がりがある。そうなると、「bây nhiêu」は「これぐらい」、つまり目の前のような量と いう意味を表す。「bấy nhiêu」は「それぐらい」、つまり目の前になく確定される量か、 「bây nhiêu」の言い換え言葉という意味がある。 (41)Tôi chỉ còn bây nhiêu giấy thôi.
紙はこれぐらいしかない。 (42)Bấy nhiêu giấy là đủ rổi. それぐらいでいいよ。 この「bấy nhiêu」は上の例の「bây nhiêu」を繰り返すのに使われている。 (43)Mười lăm phút mà vẽ được bây nhiêu là giỏi rồi. 15 分でこれぐらい書けば上出来たよ。 (44)Nói bấy nhiêu là đủ rồi. 19 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com それぐらい言ったら、もう十分。 そのほかにも「tất cả」、「 tất thảy」、「 cả thảy」、「 cả」(全部)、「mọi」、「mỗi」、 「từng 」、「những 」、「các」、「 một」なども数量の指示詞である。その中には「mọi」、 「mỗi」、「từng 」、「những 」、「các」、「 một」というグループは必ず名詞と接続しなけ ればならない。一方、「tất cả」、「 tất thảy」、「 cả thảy」、「 cả」、「bây nhiêu」、「bấy nhiêu」は名詞に接続しなくてもいいのである。 表 5: 数量の指示詞の分類 独立語の指示詞: 確定された数量の指示詞: 「 tất cả 」、「 tất 「bây nhiêu」、「 bấy nhiêu」 thảy」、「 cả thảy」、 「 cả」 数量の指示 詞 「 指 示 詞 + 名 全部という意味を表す指示詞 詞 」:「 mọi 」、 「mỗi」、「từng 」、 「những 」、「các」、 「 một」 ④状態の指示詞 状態を指す指示詞は前の文節、前の文、前の文章にあった状態、事件、または、話 し手か聞き手の体験を表すと考えられる。「thế 」と「 vậy」などがよく使われている。 その 2 つの言葉は同じ意味、用法をもっている。しかし、「thế 」は下記のように 「này」、「 kia」、「 ấy」、「 nọ」と組み合わせることができる。 (45) Anh làm thế này thì hỏng mất.
(こうしたら駄目だよ。) (46) Trời mưa thế kia mà nó cứ nhất định ra về. (こんなに雨が降っても、必ず帰るって。) (47)Làm người thế ấy cũng phi anh hùng. (そうしたら、英雄になれないよ。) (48)Người nói thế nọ, người nói thế kia, tôi chẳng biết nghe ai. (皆はそれぞれ話をして、誰に聞けばいいか分からない。) 上記の場合は「thế 」を「 vậy」に取り換えられない。つまり、「 vậy」は「này」、 「 kia」、「 ấy」、「 nọ」と組み合わせることができない。 20 TIEU LUAN MOI download : skknchat@gmail.com 表 6: 状態の指示詞の分類 動詞/形容詞+vậy 状態の指示詞 này kia 動詞/形容詞+thế + ấy nọ 1.3 日本語の指示詞とベトナム語の指示詞(文脈指示を中心に) 指示詞はほとんどの言語に存在しているものの、言語によって、指示詞の構造や使 い分け規則が異なることが少なくない(単 2005:83)。ベトナム語と日本語は異な った語族に属しているため、言うまでもなく両国の指示詞かなり違いがあるだろう。 外国語を身につけるには自分の母語に比較しながら学ぶのが最も速く覚えやすいと言 われている。ベトナム人日本語学習者が日本語を習得する際に、日本語の指示詞と近 い母語の表現を確認してから、「こ・そ・あ」を習得した方が速いのではないだろう か。そのため、本稿は日本語の指示詞とそれを対応するベトナム語の表現を考察し、 共通点と相違点を述べる。 1.1 共通点 日本語の指示詞とベトナム語の指示詞の定義、分類を個別に考察した上で、次の ような共通点が挙げられる。 ①日本語とベトナム語の指示詞は物事、方角、場所、人、状態などを指し示す語 に接続して、ある意味を直接指し示す働きがある。 (49)Tôi đã đi trên con đường này.